1. 創業の背景

JTOPIAは、有田焼を中心とする日本の高級伝統工芸品をオンラインで販売するECサイトとして誕生しました。
当初は「器をネットで売るなんて難しい」「伝統工芸品は直接見て選ぶものだ」との声が大半で、業界の常識に囚われた見方が一般的でした。しかし、私はその“常識”の中にこそ新たな可能性があると考えたのです。
オフラインからオンラインへの挑戦
- 店舗数の減少:地方の伝統工芸品専門店は減少傾向にあり、消費者が実物を手に取れる機会も限定されていました。そこでインターネット上に「いつでも、どこでも」買える場をつくることで、新たな購買体験を提供できるのではないかと考えたのです。
- グローバル需要への対応:海外でも日本の伝統工芸品に興味を持つ層は一定数存在します。オンライン化によって、国内外を問わず広範な顧客層へのアプローチを可能にしました。
2. 有田焼を「器」から「贈答品」へ:ジョブ理論とドリルと穴の理論

創業時に特に注力したのは、有田焼を従来の「器」というカテゴリーから抜け出し、「贈答品」という新たな位置付けで打ち出すことでした。
ジョブ理論に基づく再定義
ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授が提唱した「ジョブ理論」は、顧客が商品を購入するのはその商品そのものが欲しいからではなく、「その商品が解決してくれる用事(ジョブ)」があるからだ、と説きます。
- 顧客のジョブ=祝福や感謝の気持ちを伝えたい
- 商品が果たすジョブ=特別な贈り物としての有田焼
ドリルと穴の理論
さらに、セオドア・レビット教授の「人々が欲しいのはドリルではなく、穴である」という理論と通底します。有田焼という“ドリル”ではなく、結婚祝いや法人ギフトなどで喜ばれる“穴”、すなわち「贈り手と受け手の特別な絆や思い」を実現するための手段として再定義しました。
3. 贈答文化の再定義と顧客心理の深掘り
有田焼を“贈答品”として位置付ける際、伝統的な贈答文化に対する深い理解と顧客心理の掘り下げが不可欠でした。
- 贈答シーンの多様化
- 結婚祝いや出産祝い、長寿祝い、企業の周年記念や退職祝いなど、贈り物が必要となるシーンは多岐にわたります。JTOPIAは、その多様なシーンごとに最適な商品ラインナップやメッセージ提案を行いました。
- 贈り手・受け手双方への細やかなフォロー
- 贈り手にとっては「相手に失礼はないか」「センスを疑われないか」といった不安がつきもの。そこで贈答マナーの解説やのし紙の種類、最適な価格帯の提案などを充実させ、迷わず選べる仕組みを整えました。
- 受け手にとっては「贈り手の気持ちが伝わってくるか」「日常のどんなシーンで使えるか」などが大切です。商品ページや同封物に作家や産地のストーリーを添えることで、贈り物に込められた想いがより伝わるよう工夫しています。
4. Googleショッピング広告と行動経済学に基づいたインターフェイス改善

大規模な広告投資の意義
JTOPIAの成功を加速させた要因として、Googleショッピング広告への積極的な投資が挙げられます。初期はCPA(Cost Per Acquisition=顧客獲得単価)の高さに苦しみましたが、オンラインでの顧客獲得における「初期投資の重要性」を経営陣全員で共有したことで、大胆な予算確保が実現しました。
行動経済学を駆使したUI/UX最適化
- ランディングページ(LP)の心理的誘導
- ファーストビューに目を引く商品写真と「特別な贈り物に最適」というメッセージを配置。購入の目的を一目でイメージできるようにしました。
- 意思決定の簡略化
- カート投入までのクリック数を最小限にし、購入金額や配送方法を簡単に比較できるUIを採用。行動経済学で言われる「決定の容易さ」が購買率を左右すると考えたのです。
- アフォーダンスデザインの導入
- 文字だけでなく、視覚的なアイコンや色の使い分けで操作をガイドし、迷いなく行動を取れるよう設計。ユーザーが「ほかに検討すべきことはないか」と迷う時間を削減しました。
5. メディア露出と「職人ストーリー」の活用
テレビやドラマへのスポンサー提供
- ブランド認知の劇的拡大
TBSの『マツコの知らない世界』など人気番組への提供は、短期間で認知度を飛躍的に高めました。テレビを通じて伝統工芸品の“モダンな魅力”がクローズアップされ、若年層にも興味を持ってもらえるきっかけをつくったのです。
職人ストーリーの訴求
- 作家や工房の想いを伝える
ただの商品紹介ではなく、産地や職人の歴史・技術・こだわりに焦点を当てたコンテンツを積極的に発信。顧客は商品そのものではなく、そこに込められた物語や情熱に共感し、購入後も「大切に使おう」と思うようになります。 - 伝統と革新の両立
一見、伝統工芸という枠は保守的に見えるかもしれません。しかし職人たちの中には、新しい技術やデザインの取り入れに意欲的な方も多いのです。そうした“挑戦する伝統”の姿勢を発信することで、製品の現代性と将来性をアピールしました。
6. 顧客満足度向上とリピーター獲得戦略
カスタマーサポートの充実
- 即時対応と個別フォロー
配送トラブルやギフト包装に関する要望には迅速かつ柔軟に対応。丁寧なコミュニケーションを行うことで、リピート購入につながる安心感を育んできました。
会員プログラムと定期的な情報提供
- ポイントシステムや限定キャンペーン
リピーターに対しては、購入金額に応じたポイント還元や限定商品の先行案内を実施。とくに法人顧客には大量購入時の特典や、周年行事に合わせた提案も行いました。 - メルマガやSNSでの継続的接点
新作情報や、職人の新たな取り組み、伝統工芸の豆知識などをこまめに発信することで、ブランドとのつながりを維持。顧客とのコミュニケーションを絶やさないようにすることで、ファンコミュニティを形成しました。
7. 結果としての成功とその後
こうした複合的な戦略が奏功し、JTOPIAは創業当初の予想をはるかに上回るペースで成長を遂げました。高級伝統工芸品を「特別な人に贈る最上の贈り物」という視点で再定義し、その魅力を多面的に発信したことで、伝統工芸の枠を超えた新たな市場を切り開いたのです。
- バイアウトの成功
JTOPIAは上場企業への事業譲渡(バイアウト)に成功し、新たな運営元のもとでさらなる規模拡大とグローバル展開が進行しています。今では国内外の展示会にも積極的に参加し、有田焼のみならず他地域の伝統工芸品の取り扱いも拡大していると聞いております。 - 私自身の学び
私が得た最も大きな教訓は、「商品が本質的に持つ価値を、時代に即した形で再定義する」ことの大切さです。伝統工芸品という一見ニッチな領域でも、顧客の“ジョブ”に焦点を合わせることで新たな価値を創造できるのだと実感しました。
8. これからの伝統工芸品ビジネスの可能性
最後に、今後の展望として、伝統工芸品が持つ可能性とビジネスチャンスについて少し触れたいと思います。
- サステナビリティの追求
昨今は環境意識が高まっており、手仕事によるものづくりは「長く使い続けられる価値」として再認識されています。これを付加価値として訴求することはさらに重要度を増すでしょう。 - 新しいテクノロジーとの融合
伝統の技術と最新テクノロジーの接点を探ることで、より多様な価値を提供できます。3DスキャンやARを活用したバーチャル展示、ブロックチェーン技術を用いた真贋証明など、可能性は無限に広がっています。 - 国際展開の加速
日本の“おもてなし”や“美意識”が海外で注目される昨今、伝統工芸品は日本文化の象徴としてさらなるグローバルマーケットを狙えます。海外の富裕層やコレクター向けにターゲットを拡張することで、伝統工芸の守り手も増やせるでしょう。
結びに
以上が、私が創業したJTOPIAの成功の理由と、その背景にある理論、そして具体的な取り組みの数々です。今後も日本が誇る伝統工芸の魅力を、世界中の方々に届ける方法は数多く存在すると考えています。
「顧客が本当に望んでいる価値を発見し、商品を再定義する」という姿勢を持つ限り、どのような市場でも新しい可能性が見いだせるはずです。
